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サリドマイド胎芽病と催奇形性

 2016/08/12 日本の薬害・公害
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サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし
そして、上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
このページも詳細ページの一つです。(現在の詳細ページ数、20数ページ)

サリドマイド胎芽病と催奇形性

サリドマイド胎芽病とは、サリドマイドを妊娠初期の母親が服用することによって、胎児(正確には胎芽)に生じる障害のことをいう。具体的には、胎芽期(胎児になる前の段階、週齢で3~7週)にサリドマイドの影響を受けて種々の障害(奇形)を生じる。つまり、サリドマイドには催奇形性がある。

サリドマイド胎芽病の特徴としては、一般的には、四肢、特に上肢の低形成であるフォコメリアphocomelia(海豹肢症―あざらし肢症)がよく知られている。その一方で、難聴や外耳奇形を含む聴覚器に強い障害が出る場合がある。さらに、あまり知られていないが、障害は内臓まで及ぶこともある。

ところで、サリドマイド児が数多く生まれた背景として、例えば日本では、「イソミンは妊婦にも安全である」という宣伝がされたことがあげられる。ところが、イソミンの催奇形性試験は実施されてはいなかった。世界的に見ても、その当時、新薬の催奇形性試験が〈義務〉付けられていなかったことは確かである。

しかしながら、薬物等に催奇形性があることは、当時すでに世界的な常識であった。例えば、増山元三郎は次のような事例を上げている。

(サリドマイド事件)当時すでに堕胎剤に用いられるキニーネやアミノブテリン(ママ)の催奇形性が知られていたし、胎芽の発育期という点で、妊娠の初期の薬物投与が危険ということも、当時知られていたし、妊娠の初期に風疹にかかると、奇形児を生みやすいことも有名だった。

(増山編1971,増山p.14) 注:アミノプテリン(葉酸誘導体)

したがって、サリドマイドを妊婦にも安全だとして宣伝する以上は、当時の世界的な学問水準に基いて、サリドマイド発売前の催奇形性試験は必須だったと言える。

なお、この事件を契機として、日本でも1965年5月(昭和40)、厚生省通達(薬製第125号通達)によって新薬に対する催奇形性試験の実施が義務づけられた。

胎芽の成長段階に応じて、薬に敏感な器官は異なっている

サリドマイドを妊婦が服用することによって生じる障害(奇形)は、いずれも妊娠初期(胎芽期)に限られている。さらに細かくみると、胎芽の発達段階に応じてサリドマイドに敏感な器官は異なっている。つまり、サリドマイドを服用する時期の違いによって、奇形の種類(形)は異なってくる。

サリドマイド胎芽病による奇形には、一定の連続性(順序)がある。例えば、上肢・下肢では、形成不全(低形成)から部分欠損さらに完全欠損(無形成)へと変化していく。(栢森良二1997,p.147「デスメリアの奇形連続性」)

最終月経初日から数えて、34~50日の間が危ない

ノバックとレンツは、最終月経初日からの日数を基にして、サリドマイド胎芽病の所見ごとに、それらが発生しやすい時期(過敏期)について詳細な研究を行った。その結果、妊婦のサリドマイド服用による障害は、最終月経初日から数えて34~50日の間に生じることが分かった。(増山編1971,木田p.138「サリドマイド胎芽病の過敏期及び正常胎児発育」)

受精卵から着床まで:週齢で1~2週、胎芽期:週齢で3~7週、胎児期:それ以降8~38週。(最終月経初日から14日後排卵、受精と仮定)

レンツの調査研究の成果は、木田監訳1981,p.281「サリドマイド服用の時期と奇形の種類の関係」にも記載されている。ここで、サリドマイド服用の時期とは、月経後の日数(最終月経第1日目から数えた日数)のことである。

月経後の日数と奇形(以下、木田監訳1981,p.281から引用)

  • 35日———無耳症、顔面神経麻痺、眼筋麻痺
  • 37日———異常のない橈骨と母指の欠損
  • 38~40日—–上肢の欠損またはほぼ完全な欠損
  • 41~43日—–鎖肛、腎奇形、膣閉鎖
  • 43~45日—–重症上肢奇形、心奇形、十二指腸閉鎖および狭窄
  • 44~47日—–重症下肢奇形、心奇形
  • 47~48日—–母指3指節、鎖肛

表の説明では、「日数は、個々の奇形症状に対する最も頻度の高い服用日をあげたものである。個々の症例は5日までの偏差があり、月経不順の場合にはこの偏差はさらに大きくなる」としている。注:橈骨(とうこつ)。

障害の出る場所は、四肢(特に上肢)、顔面(特に耳)その他全身に及ぶ

レンツによる「月経後の日数と奇形」の研究成果からも分かるように、「一般に耳の奇形は受胎してから早い時期に薬を投与されたときに起こり、腕の奇形は少し遅れて、脚の奇形はさらに遅い時期に起こる」。(増山編1971,木田p.137)

また、サリドマイドの影響は上下肢や耳だけではなく、その他眼科的な合併症や、口腔顔面領域における機能形態障害、場合によっては、内蔵、特に腸、腎臓、心臓の配置異常が加わるなど、影響は全身に及ぶことも忘れてはならない。重症度に応じて死亡率も高まるものと思われる。

いずれにせよ、これらの障害によってサリドマイド児のADL(日常生活機能)は制限され、また、社会的に不利な立場におかれやすくなる。障害者の「社会に参加する権利」を保証する「社会」の確立が望まれる。

日本におけるサリドマイド被害者の障害の種類と内訳

「公益財団法人いしずえ」のホームページを確認(2014/05/17閲覧)すると、「サリドマイドと薬害」のページに、「日本におけるサリドマイド被害者の障害の種類と内訳」が示されている。(認定数309人)

そこでは、「サリドマイド製剤による障害は主に四肢の欠損症と耳の障害です」とした上で、それぞれの障害の種類や障害の程度別の人数を一覧にしている。

私なりにそれをまとめると、主に手の障害246人(約3/4)、主に聴覚の障害82人(約1/4)、重複19人となっている。つまり重複例は少なく、手の障害と聴覚障害の二つのグループに大別されることが分かる。なお、総合計は、246+82-19=309(認定数309と一致)である。注:いしずえ1984(p.58)の資料の一部を少し修正しているようである。

「サリドマイド胎芽病診療 Q&A」(2014,p.12)では、上肢低形成型233名、聴器低形成型56名、そして混合型20名としている。総合計は、233+56+20=309(認定数309と一致)である。

「診療Q&A」の数値の内訳は、いしずえホームページとは多少異なっている。2011年度以降、新たに実施した調査の結果、訂正(修正)したのであろう。なお同Q&Aによれば、2012年4月現在の生存者数は295名である。

ところで、同Q&Aでは、上肢低形成型のうち下肢低形成合併例が3名あり、「うち1名が重度低形成で移動には車椅子が必要」としている。つまり、下肢に障害があるのは309例中3例のみと読み取れる。この比率は諸外国と比べると、極端に低い数値のようである。

全世界の生存者は5,850名(死亡率40%)と推定される

サリドマイド児の発生数(生存者)は、レンツ文献(栢森1997,p.39「サリドマイド胎芽病発生の実態」)によると、西独が最も多くて3,049症例、ついで日本309症例、英国201症例と続いており、私なりにそれらを合計すると4,165症例となる。

ただし、この文献で取り上げているのは全部で19か国であり、全世界をカバーしたものではないと思われる。サリドマイドの被害者数は文献によってまちまちであり、取扱いには注意が必要であろう。

日本国内における最新の資料である「サリドマイド胎芽病診療 Q&A」(2014,p.11)では、「全世界の発生は5,850名と推定」している。なおこの数値は、レンツ文献(栢森1997,p.41「サリドマイド胎芽病の死亡率」)に記載されているものと同じである。

サリドマイド児の死亡率は、同じくレンツ文献(栢森1997,p.41)によると、約40%と読み取れる。ただし、これまた各種文献によって異なっている。

妊婦には何も服薬させないのが当時からの常識だった

日本のサリドマイド裁判では、海外から3人が証人(及び鑑定人)として出廷した。いずれも原告側であり、被告側の証人出廷は認められなかった。

原告側の3人とは、レンツ警告を発したレンツ博士(西ドイツ)、日本人のサリドマイド禍について最初に発表した梶井博士(出廷当時、ジュネーブ大学助教授)、そしてティエルシュ教授(米国)である。(藤木&木田1974,各人の証言,1971年と1973年)

ティエルシュ教授(ワシントン州立大学)は、臨床薬理学の世界的権威であった。教授は第二次大戦後、数多くの化学物質について、多様な実験動物及びヒトを対象とした研究で成果を上げていた。もちろん、催奇形性は主要な研究テーマの一つであった。数多くの化合物に催奇形性があることは、サリドマイド発売当時すでに世界の常識であった。

同教授は、裁判で次のように証言している。「(サリドマイド発売までの時点において)産科、婦人科の教科書にも書いてあったことでありますが、妊娠期間中、特に最初の数ヵ月、三ヵ月ほどまでは、妊婦は何もとるべきでない、また、何もとることを勧告すべきでないというふうに言われておりました」。(ティエルシュ証言,p.195)

大日本製薬(株)は、「つわりも適応症だとパンフレットに書いていた」という(川俣2010,p.178)。もしそうであるならば、妊婦が服用しても催奇形性はないことを証明してから発売すべきであった。

ティエルシュ証言にあるように、当時すでに、催奇形性のある化合物がいくつも知られていたからである。また、成人において安全とされた化合物が、全て胎児にも安全であるとは限らないからである。

化学構造式から催奇形性は予見できた

ティエルシュ教授の研究対象の一つに、アミノプテリン(葉酸拮抗物質)がある。同薬剤の研究によって、ビタミンあるいは葉酸拮抗物質が、胎児に悪影響を及ぼす危険性があることが分かった。そして、アミノプテリンは、サリドマイドと同じくグルタミン酸誘導体である。

同教授は、裁判で次のように証言している。サリドマイド奇形の話を初めて聞いた時、少しも驚かなかった。なぜならば、サリドマイドの化学構造式には「グルタミン酸とフタール酸塩を含んでいる」と教えられたからである。(ティエルシュ証言,p.190、「」内以外は要約)

同教授は、グリュネンタール社の動物試験では、催奇形性試験が実施されていないことのほかに、いくつかの項目が抜け落ちていると指摘している。つまり、安全性が完全に確立されていたとは言えないとしている。

サリドマイド事件全般についてのまとめ

サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
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