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レンツ警告(疫学の考え方、四分表(2✕2表)を理解する)

 2016/08/16 日本の薬害・公害
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サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし
そして、上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
このページも詳細ページの一つです。(現在の詳細ページ数、20数ページ)

疫学の考え方

サリドマイドと奇形との間に、因果関係が有るのか無いのかをはっきりさせるためには、疫学の考え方が必須である。

疫学とは、広辞苑2008(第六版)によれば、「疾病・事故・健康状態について、地域・職域などの多数集団を対象とし、その原因や発生条件を統計的に明らかにする学問」としている。

サリドマイド事件の場合には、症例対照研究(後向き研究)として行うことになる。つまり、「ある疾病にかかった群(症例群)とかかっていない群(対照群)を設定し、両群における過去の生活習慣の状況を比較する方法」である。

具体的には、調査結果を四分表(2×2表)にまとめて統計学的な分析をする。そしてその上で、必要に応じた素早い対応を取ることが求められる。

母親がコンテルガン(サリドマイド製剤)を服用したかどうか

サリドマイド仮説、すなわち「サリドマイド胎芽病の原因はサリドマイドに有る」ことを証明する最も重要なポイントは以下のとおりである。

「奇形児と非奇形児の間で統計的にもっとも差のある因子は、妊娠初期におけるサリドマイドの服用である。すなわち、前者の母親には、妊娠初期にサリドマイドをのんだ確証のあるものが多いのに対して、後者の母親にはそれが少ない(レンツ博士)」。(統計学的に有意(有意差がある))

レンツは、自ら集めた調査結果を四分表(2×2表)にまとめて、そのことを証明した。そして、警告を発した。レンツ警告の意義は、「疫学調査とその統計学的な処理及び具体的な対策」を示したことにあると言える。

レンツ警告の四分表(2×2表)/Images/Lenz.jpg/(図略)

これが、レンツ警告の四分表(2×2表)である。増山編1971(高橋p.194)の表を、津田(2003,p.85)が改編したものを参考にした。この表から、コンテルガン服用とサリドマイド児発生との間に因果関係があるのは明らかである。なぜならば、オッズ比=380.45(95%信頼区間、83.28~2404.53)という非常に高い値を示しているからである。

ただし厳密には、そこで示された四分表はレンツ警告(1961年11月15日)当時のものではない。レンツが初めてグリュネンタール社へ電話をした時、レンツの手元には、自ら調査した21例中14症例しか確実な症例は集まっていなかった。レンツはその後も調査を続けて、上記四分表を完成させたのである。

レンツ警告の四分表(2×2表)の内訳

吉村功(名古屋大学助教授)によれば、このデータの内訳は以下のとおりである。(増山編1971,吉村p.269)

「レンツは、ハンブルグ大学病院小児科と、ハンブルグ、ブラウンシュヴァイク、シュターデの各病院で見出された全奇形児129例」の母親の服用状況を調査をした。

  • サリドマイド服用が確かなもの(90例)
  • 服用が確かとはいえないもの(22例)
  • 調査がそれまでに終わっていないもの(17例)

ここで奇形とは、当然サリドマイド胎芽病のことを指している。「もちろん死亡例も含めている」。そして、集計の対象になったのは、未調査例17例を除外した112例である。

「対照には同時期にハンブルグの病院で入院、出産した非奇形児から層別してランダムに188例」を選んだ。その母親の服用状況は、以下のとおりであった。

  • 妊娠初期にサリドマイドを服用しなかったもの(186例)
  • 妊娠初期に服用したが日付け不明のもの(2例)

症例対照研究(ケース・コントロール・スタディ)における四分表(2×2表)

1)四分表(2×2表)を用意する

症例群(ケース)、つまり症状のあった群と、対照群(コントロール)、つまり症状のなかった群を比較検討する。そのために、それぞれの群ごとの暴露(服薬その他の 〈原因〉)割合、すなわち〈オッズ〉を計算し、それを基に両者の〈オッズ比〉を算出する。(2×2表)

症例群(奇形+):
服用(暴露+)90人(a人)、非服用(暴露-)22人(b人)、計112人

対照群(奇形-):
服用(暴露+)2人(c人)、非服用(暴露-)186人(d人)、計188人

2)各群ごとの〈オッズ〉を計算する

それぞれの群ごとの〈オッズ〉を、次のように、服用(暴露+)と非服用(暴露-)の比として求める。

症例群の〈オッズ〉:症例群における服用割合(暴露割合)、a/b
対照群の〈オッズ〉:対照群における服用割合(暴露割合)、c/d

3)〈オッズ〉比を計算する

その上で、オッズ〈比〉を、それぞれの群ごとのオッズの比として求める。実際の計算においては、2×2表の各数値をタスキ掛けに計算すればよいことになる。

オッズ〈比〉:

症例群のオッズ/対照群のオッズ
=(a/b)/(c/d) → ad/bc(実際の計算方法、タスキ掛け)

レンツ警告におけるオッズ比
=(90×186)/(22×2)
=380.45(95%信頼区間、83.28~2404.53)

なお、「四分表からカイ二乗の値を求め、この値が3.84以上であれば有意とするのが普通」とされている。(増山編1971,増山p.23)

四分表(2×2表)の縦と横を読み間違えてはいけない

いしずえ1984年(年表p.120)に次の2項がある。

  • 1969年5月、阪大杉山教授、統計学の初歩的な誤りをおかし、レンツ学説を否定。
  • 同年7月19日、杉山教授、レンツ学説の否定を撤回。

大阪大学工学部杉山博教授の論文、「いわゆるサリドマイド問題に関する統計的考察」(『日本医事新報』第2351号,1969年5月17日)をめぐる話題である。同論文では、「2×2表の縦と横」を単純に読み間違えて、サリドマイド原因説を否定した。

この杉山論文に対しては多くの反論が出され、増山編1971にも多数収載されている。(増山pp.3-84,建田pp.179-191,高橋pp.193-207,吉村pp.233-306,そして大阪大学災害問題研究会pp.307-319.)

杉山は、その後自説を撤回した。

津田敏秀(岡山大学)は、四分表(2×2表)の見方の注意点として次のようにまとめている。

「症例対象研究の表では、症例の合計と対照の合計を取る意味はあるが、服用群と非服用群の合計は取るべきではない。症例の服用割合と対照の服用割合にそれぞれ意味があるのだから、それの合計をすると何の割合が反映されているのか分からなくなる。表の読み方を90度曲げてはならない」。(津田2003,p.85)

つまり、四分表(2×2表)の縦と横を間違えてはいけない。四分表(2×2表)では、1)症例(奇形+)群におけるサリドマイド服用割合、そして、2)対照(奇形-)群におけるサリドマイド服用割合に意味がある。

これに対して、例えばサリドマイド〈非〉服用群における(奇形+)と(奇形-)の割合には何の意味もない。サリドマイド〈非〉服用群とは「服用が確かとはいえないもの」であり、母親がサリドマイドを服用したかもしれない(疑わしい)患者も含まれているからである。そこで(奇形+)と(奇形-)の比を取ってみたところで何の割合が反映されているのか分からない。

柴田義貞(長崎大学)は、医学部4年生や大学院生を対象にした授業において、上記杉山論文を教材に使い続けている。杉山論文の全文コピー(6ページ分)を前提条件無しに手渡し、2週間後にレポートを提出させるのだという。

その結果は、杉山論文の問題点を的確に指摘するものはごく少数(10%台)にとどまり、8割近くは杉山論文の趣旨に全面的に賛同するという。筆者はこのことを踏まえて、「杉山論文は医学部生に断面調査,コホート調査,症例対照調査に伴う2×2表を理解させるのに非常に有用であると考える」としている。(柴田2010,p.1)

津田は、レンツ警告(四分表、2×2表)を用いて、「「科学的根拠に基づいた行政判断」について、学生に質問を投げかけることにしている」(津田2003,p.83-87)という。⇒ サリドマイド事件(疑わしきは直ちに「回収」すべきであった)

サリドマイド事件全般についてのまとめ

サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし
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