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サリドマイドによる被害調査(厚生省、森山豊東大教授に依頼)

 2016/08/14 日本の薬害・公害
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サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし
そして、上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
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森山調査には二種類ある

厚生省は、1962年9月14日(昭和37)、森山豊(東京大学医学部附属病院分院産婦人科)教授に、サリドマイドによる被害調査を依頼した。大日本製薬(株)がサリドマイド製剤の販売中止(回収)を決定した翌日のことである。

この森山調査には二つある。厚生科学研究班による共同調査(75症例)と日本先天異常学会によるアンケート調査(936症例)である。

特にアンケート調査(936症例)は、日本で初めてサリドマイドによる被害実態を解明した調査として、新聞紙上でも大きく取り上げられた。しかし、アンケートによる調査精度が低く、サリドマイドが原因でない障害児が多数混ざっていたとされている。

日本先天異常学会では、個々の症例ごとに詳細調査を実施することが検討されたものの、結局はその後の追加調査は何一つ行われることはなかった。

なお、アンケート調査(936症例)の調査項目には、「耳や指の奇形」そしてプロバンMは含まれていなかった。

厚生科学研究班の共同調査(75症例)

森山調査の一つが、厚生科学研究班(森山豊・東大分院産婦人科教授)が行った共同調査報告書(75症例)、すなわち「海豹状奇形の発生要因に関する研究 ― 特にサリドマイド製剤との関係」厚生科学研究報告(1963年3月31日)である。

この共同調査報告書は、厚生省からの正式依頼(1962年11月30日)を受けて、森山が主任研究者として同年度中に急いでまとめたものである。東京都立築地産院のデータ(3例)をはじめ、共同研究者が知っている症例のみ75例を集めている。

梶井データ(小児科)は含まれていない。なお、この75例の調査原本はその後行方不明となっている(サリドマイド裁判1976,第3編,p.659)。

文献名:森山豊(1964年)「海豹肢症について」(産婦人科の世界,16(2),153-158.)。成書としては、西村秀雄・ 村上氏広・森山豊編(1966年)『先天異常 ― その成因と対策』にも収載されている。

ところで、川俣(2010,年表p.533)は、「1963年3月31日、森山豊東大医学部教授等「海豹状奇形(Phocomelia)の発生要因に関する研究」で国内の被害総数は936人と発表」としている。ただしこれは、1963年3月にまとめられた「共同調査結果(75症例)」と、1964年3月にまとめられた「アンケート調査結果(936症例)」を取り違えているものと思われる。

日本先天異常学会のアンケート調査(936症例)

森山調査のもう一つは、日本先天異常学会によるアンケート調査(936症例)である。

厚生省から正式依頼のあった日付は、いしずえ1984(年表pp.118-119)によると、1962年9月13日(サリドマイド剤の販売停止、回収)決定の翌日、9月14日(厚生省、サリドマイドによる被害調査を森山東大教授に依頼)である。

ただし、サリドマイド裁判ではその日付けは不明としている。とはいうものの、厚生科学研究班の共同調査(75症例)よりは早い時期であったと思われる。(サリドマイド裁判1976,第3編,p.638)

さて、調査結果は、報告書「フォコメリーの発生要因及びその治療に関する研究について」(1964年3月)にまとめられ、学会発表の後、文献として公表された。森山豊(1964年)「海豹肢症に関する全国調査報告:第1報」,日本先天異常学会会報,4(2),88-89.である。

なお、この調査においても梶井データ(小児科)は含まれていない。

アンケート調査(936症例)の精度を評価する

平沢正夫は、アンケート調査(936症例)について次のようにまとめている。

「(厚生省は)回収決定(1962年9月13日)の翌日、サリドマイドと奇型発生の関係を統計的に正確につかむことをきめ、東大の森山教授に調査を依頼した。森山教授ら六氏は、日本先天異常学会で研究班をつくり、約五万通の調査票を全国の産婦人科医と助産婦一人ずつにもれなく配布した。回答は29,312通、回収率は58.1%であった。調査の結果は、1964年7月、日本先天異常学会において発表された」。(平沢1965,pp.139-140)

このアンケート調査(936症例)は、新聞でも大きく取り上げられた(例えば、朝日新聞1964年7月10日付け東京版夕刊、聞蔵Ⅱビジュアルより)。見出しには「六年間に九百余人、あざらし状児の出生、日本先天異常学会で発表」とあり、「あざらし状奇形児がいったいわが国でどれくらい生まれたのか、その実数を初めて明らかにしたものとして注目された」。

梶井正は、このアンケート調査(936症例)に対して、サリドマイド裁判における証言の中で次のような評価をしている。

つまり、アンケートの回答には「いわゆるサリドマイド児でない、それに似ているけれども違う奇形を相当含んでいるのではなかろうかという推定が成り立ちます」とした上で、医師はもちろんのこと、特に助産婦の回答の質に懸念を示している。(藤木&木田1974,梶井証言p.148)

サリドマイド胎芽病による奇形の種類(形)は多様である。サリドマイドによる奇形とそうでない類似の奇形とを鑑別診断したり、内臓の障害まで見逃さないためには、臨床経験を積んだ医師による総合的な判断を必要とする。(藤木&木田1974,梶井証言pp.157-160)

もっとも、医師であろうと助産婦であろうと、一片の調査表のみでは、どのような症例がサリドマイド児であるかを鑑別診断することは難しかったのではなかろうか。ちなみに、この調査依頼状の末尾には、「注」として次のように書かれていた。

「アザラシ症(フォコメリー)とは、上肢または下肢の長骨が短く、形が不完全か、または欠損しているもので、左右同じような状態になっていることが多い。なお四肢のほか内臓その他の奇形が併合していることもある」。(サリドマイド裁判1976,第3編,p.643)

耳や指の奇形、そしてプロバンMは調査対象外だった

なお付け加えるならば、アンケート調査(936症例)では、「耳や指の奇形」については最初から調査項目に含まれていなかった(サリドマイド裁判1976,第3編,pp.659-660)。また、プロバンMは調査対象外だった。

「耳の障害」は、サリドマイド胎芽病の約1/4を占めている(いしずえホームページ「日本におけるサリドマイド被害者の障害の種類と内訳(認定数309人)」)。したがって、少なくとも全体の約1/4に当たるデータがそっくり抜け落ちている可能性が高い。

そして、平沢(1965,p.204)によれば、イソミンとプロバンMの被害児数には大きな差はなかったとも考えられる。

したがって、イソミンのみを対象とした(プロバンMを含まない)このアンケート調査(936症例)では、「耳の障害」(全体の約1/4)や「指の奇形」(頻度不明)が調査対象から外れていることと合わせて考えると、全体の半数以上のデータが抜け落ちている可能性も否定できない。

森山教授は、因果関係をはっきりとは認めなかった

森山教授らによるアンケート調査(936症例)の結果(学会発表)は、上記のように新聞紙上でも紹介された。

平沢正夫は、森山教授の言葉(朝日新聞記事1964年7月11日付け)を次のように伝えている。

「森山教授は「サリドマイドが大きな原因だったことはほぼ確実といえる。しかし、他の要因も考えられるので、今後はこの調査票をもとに、個別的にサリドマイド服用との関係を明らかにしていきたい」(朝日新聞記事1964年7月11日付け)として、この時は、因果関係をはっきりとは認めなかった」。(平沢1965,p.140)

森山豊教授(東大分院産婦人科学教室)は、日本産婦人科学会の重鎮であった。だからこそ、厚生省は”サリドマイドと奇形発生の関係を統計学的に正確につかむため全国規模の調査”を依頼したはずである。

アンケート調査結果を示した文献(第一報)の末尾を改めて確認すると、「私らは今後この報告分936名について妊娠中の経過その他の詳細な調査を行なう予定である」と結んでいる。当初は第二報を出す予定だったのであろう。

ところが、集めたアンケート調査原本はその後所在不明となり、個別の患者ごとの詳しい調査は結局行われなかった。

森山は、その理由の一つとして「研究費が出なくなったこと」を上げている(サリドマイド裁判1976,第3編,p.660)。要するに、厚生省及び学会とも詳細調査をする必要性を認めなかった、つまり、事の重大さをきちんと認識していなかったと考えられる。

全般的に、日本産婦人科学会では、サリドマイド仮説「サリドマイド胎芽病の原因はサリドマイドに有る」を積極的に認めることはなかったと言えるだろう。なお森山は、後のサリドマイド裁判において、被告側の証人として出廷した。⇒ 東京都立築地産院におけるサリドマイド児3例

サリドマイド事件全般についてのまとめ

サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし
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