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サリドマイドの血管新生抑制作用と不斉合成

 2016/08/14 日本の薬害・公害
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サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし
そして、上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
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サリドマイドは、TNF-αの血管新生作用を抑制する

サリドマイドは、TNF-αの免疫系内での合成を選択的に抑制する。

その結果、臨床的にはヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の増殖そのものを抑制したり、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ、動脈硬化症、乾癬症、SLEなど)に対して有効な薬剤となっている。最近では、サリドマイドは免疫抑制剤として、ステロイドよりも優れているとするデータが多く発表されるようになっている。

TNF:腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor)は、腫瘍細胞を壊死させる作用のある物質として発見されたサイトカインである。そして、TNF-αはその中の一種である。

TNF-αには血管新生作用がある。サリドマイドの副作用である多発神経炎や胎芽病は、サリドマイドによってTNF-αの合成が抑制され、その結果、血管新生が抑制されるため生ずることが分かってきた。

逆に、この血管新生抑制作用を治療に応用できる可能性がある。新たな血管が異常に形成される病態である糖尿病性網膜症や老人性黄斑変性症では、むしろ血管新生を抑制することが治療につながるからである。同様の理由で各種がんに効果が期待できる。

例えば、1999年10月、米国国立がん研究所はサリドマイドによる結腸・直腸がん治療の臨床試験を開始すると発表した。2001年8月には、Mayo Clinicによって、サリドマイドが早期多発性骨髄腫(血液がんの一種)に有効であるとの報告がなされている。このように、サリドマイドの薬剤としての可能性は非常に高い。今後ともさらにその適応は広がっていくものと考えられる。

サリドマイドは、グアニン(核酸塩基の一種)とよく似ている

サリドマイド分子の一部は、DNA(デオキシリボ核酸―Deoxyribo Nucleic Acid、遺伝子の本体)を構成する核酸塩基の一種であるグアニン(G)と驚くほどよく似ている。そして、グアニン(G)と類似構造を有するサリドマイドは、DNAの二重鎖の中に滑り込む(インターカレートする)ことができる。

DNA塩基配列の中には、5′-GGCGGG-3’という特殊な配列(グアニンとシトシンによる配列でGCボックスと呼ばれる)をもつ個所がある。このGCボックスが、成長刺激の連鎖反応に関する一連のたんぱく質(複数)のそれぞれの遺伝子中に8箇所も発見されている。

DNAに入り込んだサリドマイドが、この”GCボックス”に何らかの影響を及ぼし、胚の一部での血管新生とそれに続く正常な発達を妨げるものと考えられる。

DNA(核酸の一種)の構成成分となる4つの塩基:

  • アデニン(A)—-プリン塩基
  • グアニン(G)—-プリン塩基
  • シトシン(C)—-ピリミジン塩基。グアニンと塩基対を形成(水素結合3つ)
  • チミン(T)——ピリミジン塩基。アデニンと塩基対を形成(水素結合2つ)

サリドマイド禍の主要な原因標的タンパク質を同定(東京工業大学)

2010年(平成22)3月8日、国立大学法人東京工業大学は、「サリドマイド催奇性における主要な標的因子を発見」したことを公表した。その内容(冒頭一部のみ)は、次のとおりである。(同大学Webより、2014/10/19閲覧、「」内引用)

「国立大学法人東京工業大学(伊賀健一学長)の統合研究院・半田宏教授と伊藤拓水研究員らのグループは,東北大学加齢医学研究所・小椋利彦教授との共同研究で,1960年前後において引き起こしたサリドマイド禍の主要な原因標的タンパク質を同定した」。これによって、「催奇性を軽減させたより優れた新薬開発への道」が開かれたことになる。

サリドマイド児が発生したことはサリドマイド自体の罪ではない。それを使用する人間が対応を間違ったのである。今こそサリドマイドの使用法に関して人類の叡智が求められている。サリドマイドの代替薬として、より安全性に優れた薬剤の開発に成功するその日まで。

サリドマイドには「不斉」炭素が一つある

サリドマイドには「不斉」炭素が一つある。したがって、右型左型が存在するわけであるが、睡眠・鎮静作用があるのは「右手型(R体)」で、「左手型(S体)」には催奇性による四肢の矮小化等の作用があった。とするならば、この両者を分離して市販していれば悲劇は避けられたのであろうか。残念ながら、そうとばかりは言えないようである。

まず第一に、催奇形性が「左」「右」両者のうち一方のみにあるということは事件後に分かったことである。そして、事件前にその事実をつかんでいたとしても、両者を完全に分離生産する技術は当時まだ確立されていなかった。さらに言えば、その後の研究によると、サリドマイドの場合、右手型も体内で少しづつ左手型に変化していくという。

サリドマイドが市場に登場した段階ですでに悲劇は始まっていた。医薬品を製造販売することの責任の厳しさを示す事件である。

ノーベル化学賞・野依良治教授(不斉合成)

2001年度ノーベル化学賞に、野依良治(のより・りょうじ)名古屋大学大学院教授ら3名が選ばれた。

スエーデン王立科学アカデミーは2001年度のノーベル化学賞を “触媒による不斉合成(Catalytic asymmetric synthesis)” の業績に対して贈ることを決定した。その半分は “キラル触媒による不斉水素化反応の研究” に対するものであり、米国のウィリアム・ノールズ氏(William S.Knowles、米モンサント元研究員)と野依良治氏(名古屋大学大学院教授)に連名で、残り半分を “キラル触媒による不斉酸化反応の研究” に対し、米国のバリー・シャープレス氏(K.Barry Sharpless、米スクリプス研究所教授)に贈ることを決定した。

日本人のノーベル化学賞授賞は、前年の白川英樹・筑波大学名誉教授に引き続くもので、日本の化学の水準の高さを示す結果となった。なおこの時点において、日本人のノーベル賞授賞者は野依教授も含めて全部で10人である。そして翌年、田中耕一・島津製作所フェロー(受賞後昇進)が2002年度のノーベル化学賞を受賞した。3年連続で日本人がノーベル化学賞を受賞したことになる。

なお、野依良治教授は、2003年10月から独立行政法人理化学研究所の初代理事長となり、2015年3月末で辞任した。

不斉合成とは

参考資料:ニュートン特別インタビュー

  • ノーベル化学賞受賞 野依良治名古屋大学大学院教授に聞く
    化学物質の左右型のつくり分けに成功、合成化学に新たな道を切り開いた
    ニュートン22巻1号(2002年1月号)pp.26-33.
  • 野依:ものの形には二つしかありません。一つは左右対称で右と左の区別がないもの。もう一つは左右の区別があるものです。たとえば、野球の世界でいうとボールは左右対称ですが、グローブには左右の区別があります。
  • Newton:右手型と左手型とでは、おたがいが鏡に映った像の関係にあるので、それらのことを「鏡像異性体」とよびますね。(引用、ここまで)

有機化合物で基本となるのは炭素(C)である。その炭素には腕が4本あり、炭素同士あるいは他の原子(分子)と結びつく。そして、炭素同士が鎖状に連なってできた化合物においてそれぞれの炭素について見ると、炭素を中心に置いた正四面体(三角錐)構造をとる。

ここで、炭素に結合している4つの原子(分子)がすべて異なるとき、ちょうど人間の右手と左手のように、鏡に映すとぴったり重なる関係にある2つの物質(鏡像体、光学異性体))が存在することになる。このような炭素を不斉炭素という。そして、不斉炭素を含む分子を「不斉である」「キラルである」といい、左右型をつくり分けることを不斉合成という。

生体内(生化学反応)では不斉合成はごく当たり前に行われている。例えば、糖類はすべて右手型であり、アミノ酸はすべて左手型である。それぞれの反対型は生体内には全く存在しない。しかし、人工的な化学合成において、左右型の作り分けはそれほど簡単なことではなかった。

野依教授による不斉合成

野依教授は、世界で初めて「右手型」と「左手型」の人工的なつくり分けの可能性を示唆し、その後自らBINAP触媒というものを開発してそのことを実証した。この技術を用いて、1983年に世界初の不斉合成による工業化が日本で実現した。対象となったのは “L-メントール” で、高砂香料工業(株)において、野依教授の研究グループや大阪大学などとの共同研究によって製造方法が確立された。

  • 左手型メントール:
    単一の香料としては世界的に最も需要の多い、薄荷やペパーミントの主成分でありスッキリとした清涼感がある。タバコ、のど飴、そして歯みがき粉などに幅広く利用されている。
  • 右手型メントール:
    ほこりっぽく、消毒薬臭い。
  • その他の実用化例:
    プロスタグランジン、βラクタム系抗生物質、キノロン系抗菌剤など多数。

参考:光学異性体の物理化学的な性質はほとんど同じだが、旋光性(直線偏光がその物質を通過するとき偏光面が回転する現象)が異なる。回転方向が右回りの場合を右旋性(dextrotatory)といい、d または + を付けて表し、左まわりの場合は左旋性(levorotatory)といって、l または – を付けて表す。さらに、結合する置換基の順位付けをして、その並び方の約束から定める区別もあり、RとS、あるいは旧来のDとLで分類する場合もある。

サリドマイド事件全般についてのまとめ

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